発達支援専門コラム

保育の現場に心理の専門家がなぜ必要か

日本臨床心理士会は、①心理査定(アセスメント)、②面接援助技法、③人的援助システムのコーディネート及びコンサルテーション、④臨床実践に関連する研究・調査を臨床心理士の専門行為として、一定の水準の維持を求めています。これらの4つの専門行為については、いずれもが保育の現場の抱える課題に対応し、成果に結びつく可能性が高いと考えています。

保育業界の抱える課題や現場が抱える課題は多岐にわたりますが、その一つに「障害児への対応」を挙げることができます。障害を抱えている園児への対応については、従来の保育の体制ではその対応が困難なケースも多くあります。

例えば、保育士が、定型発達児と比較して、発達に遅れがあることやコミュニケーションの難しさに気づいたとしても、それらが障害によるものと考えるべきか否かの判断が難しく、障害によるものだと判断できても、「ではどう対応すればいいか」についての方針を決めることの難しさも残ります。

これらについては、臨床心理士の専門行為である①心理査定(アセスメント)②面接援助技法に該当するものであり、一定の経験を積んだ臨床心理士であれば、対象児への見立てと方針を決めることができるはずです。

①心理査定(アセスメント)の段階では、心理テストを用いることもありますが、保育の現場であれば、観察や保育士・保護者からの情報収集によって、対象児や周囲が抱える困難さがどのような背景によって生じているかについての見立て(仮説)をおこないます。

②面接援助技法について。援助の段階では、見立てを保育士や保護者と共有し、コンサルテーション(保護者も育児の専門家と考えます)の形で助言する間接的援助や、臨床心理士が対象児に援助する直接的援助が考えられます。保育の現場では特に間接的援助の重要性が高く、保育士や保護者が対象児についての適切な理解を持つことが対象児の発達を促すうえで大きく役立ちます。

③人的援助システムのコーディネート及びコンサルテーションについても、保育の現場は未だ定型発達児の保育を前提とした体制が多く残っており、場合によっては「障害児が頑張って定型発達児の活動に合わせていく」という状況が生じることもあります。そうではなく「対象児の発達を促してくためにはどのような体制が望ましいか」を考え、提案していくことが必要となります。

④臨床実践に関連する研究・調査についても、現在は障害児保育(インクルーシブ保育)が社会の中で定着する過渡期でもあり、「障害児保育はこのような形でやればよい」といったモデルが明確に示されていないように感じます。そういった中で、現場での実践を研究、調査し、外部に発信していくことが社会の中でのモデル形成に役立ち、また発信のプロセスの中で自園の取り組みに意見をもらうことで、その取り組みも充実していくと考えています。

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