発達支援専門コラム

保育現場での言語聴覚士の役割 ②構音発達

 言語聴覚士がもつ専門性のうち、今回は構音発達についてお話したいと思います。

 出生してから最初のことばを話すまでを前言語期といいます。前言語期では、ことばはまだ話せませんが、身体や器官が発達していく過程で唇や舌を使って様々な音を出せるようになります。反射的な運動から少しずつ随意的な運動が可能になり、長く発声したり、「あーあーうーうー」と一人で声を出して遊んだりするようになります。最初は母音(あ・い・う・え・お)が多いですが、お座りして遊んだり離乳食が始まったりする頃(68か月頃)には、子音と母音を組み合わせた音節の繰り返し(ままま、ぱぱぱ、だだだ、など)がみられるようになります。

構音は、唇や舌の動きが活発になるほど複雑な音が出せるようになりますので、喃語(なんご)といわれる音の出始めにおいて出しやすい音というのは万国共通です。ふだんよく聞く母語の影響を受けて、少しずつ発声する音の種類は制約を受けていき、母語固有の特徴が出てくると言われています。日本語でいえば、唇を使った音(ぱ行・ば行など)、鼻から抜ける音(ま行・な行など)、舌を使って呼気を破裂させる音(た行・だ行など)が出しやすいですが、舌の運動が活発になるにしたがって呼気を摩擦させる音(「は」行・「さ」行など)を出せるようになってきます。つまり、唇や舌の運動発達が伸びてくると構音できる音も多様になってくるということです。

 構音があまり明瞭でないお子さんがときどきいますが、小さいうちにできることはしっかり唇や舌を使ってその運動性を高めていくことです。そのためには、まずはごはんをよく噛んで食べることが大事です。もぐもぐと咀嚼するためには、食べ物を舌の上にのせて左右の奥歯を行ったり来たりさせる運動が必要です。そうして左右の奥歯で何度もすりつぶし、飲み込みやすい大きさにまとめるためにも舌の運動が重要な役目を果たします。ちょっと噛んで飲み込んでしまう時には、舌はあまり動かせていないでしょう。食事場面以外でも、ぺろぺろキャンディーをなめたり、唇につけた海苔やジャムをなめとったり、ひものついたボタンを唇で押さえて引っ張り合いっこをしたり、とふだんの生活や遊びのなかで取り組んでいくことで少しずつ不明瞭だった音が明瞭になってくることが多いです。

 上に書いたように、構音は舌の運動と密接に関係していますので、構音の習得にも大まかな順番があります。とくに保護者さんが気にされることが多いのは「さ行が言えない」ことかと思います。さ行は56歳くらいで完成する音です。もちろん早い段階から言えているお子さんもいますが、56歳前であれば構音操作が未熟であるがゆえに言えていない可能性が高いです。その場合、さ行がどの音に置換されているのかを確認しておくといいでしょう。た行であれば、構音操作が未熟なことが理由でしょう。か行であれば、誤った構音操作をしていることになりますので、少しだけ練習するといいかと思います。

 練習はいつでも始められるものではなく、発達年齢が4歳過ぎて、しりとりができるようになる頃がよいといわれています。この頃、音韻理解が発達し、例えば「たまご」が「た・ま・ご」と3つの音から成り立っていることが分かってきたり、一つひとつの音を取り出して順番を変えたりすることができるようになってきます。これがしりとり遊びにつながっています。このような力を音韻理解といいますが、これは練習した音を般化させていく(どの音と組み合わせても正しく言えるようになる)上でとても大切な力です。

 このように、上手に発音できない音がある場合、その状態と今の発達状況によって対応が分かれます。構音操作の未熟さが原因であれば一定の年齢まで様子を見る、構音操作の誤りが原因であれば練習ができる時期になり次第練習をする、というのが正しい対応です。個人での判断が難しいことが多いかと思いますので、気になったときに言語聴覚士に相談していただくのが一番良いかと思います。

 みぎわの各園の場合、担任を通じて言語聴覚士への相談を希望する旨お伝えいただければ、直接ご相談に乗ることも、担任を通じてアドバイスを行うこともできます。お子さんがまだ練習に応じられない段階であっても、生活や遊びのなかでできる工夫をお伝えしますので、楽しめる範囲でそれらに取り組んでもらうのもよいかと思います。

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