発達支援専門コラム

子どもに関わる作業療法士〜作業分析という専門性を活かして〜

作業療法士はいわゆるリハビリの専門職の一つで、英語ではOccupational Therapistと呼ばれるため、OTと略されます。日常生活におけるあらゆる「作業」を治療の対象とし、この「作業」を治療手段としていることが、「作業」療法士と言われるゆえんです。

ここでいう「作業」とは、人々が行うあらゆる活動のことを指し、大きく分ければ以下3つに分類できます。

① ご飯を食べたり、トイレに行ったり、お風呂に入るといった日々「する必要のある」活動

② 遊びや趣味のような「その人がしたいと思う」活動

③ 学校に行って学んだり、役割として仕事をするなどといった「誰かにすることが期待されている」活動

つまり、今みなさんが閲覧してくださっているこの文章を読むことも作業、コーヒー片手に見てくださっていたらそれを「飲む」という何気ない動作も、実は眠ることだって作業なのです。人々が1日の中で無数に行う「作業」ですが、身体や心に病気や障害を抱えると、今までできていたことが思うようにできなくなることがあります。

たとえば、脳卒中などにより運動麻痺が生じれば、立てない、歩けない、背中を洗えない、お箸が使えない、ボタンがはめられない、上手く喋れない、飲み込みがしづらいなどと言った困難さが生じることがあります。あるいは、心の病を抱えることなどによって、夜に十分な睡眠がとれなくなることもあります。このように心身のお困りごとによりこれまでのように「作業」が困難になると、医師の判断によりリハビリが処方されます。


そのリハビリを担う代表的な職種には、理学療法士(PT:Physical Therapist)、作業療法士(OT:Occupational Therapist)、言語聴覚士(ST:Speech Therapist)という3つがあり、役割に応じて治療を展開していきます。

理学療法士(PT)は、主に基本的動作(起きたり、立ったり、歩いたりといった身体を動かす)能力を再建するために、筋や神経系の機能回復を目指す役割を担います。OTは基本的動作能力の回復程度に応じ、たとえ障害を抱えることになったとしても日々の作業を再び自分らしく行っていくための方法を提案したり、練習を行ったりします。場合によっては、自助具や福祉用具の導入など環境面の調整などを図っていくこともあります。

言語聴覚士(ST)は、食べること、話すことなど、喉周りの機能低下による摂食や会話能力の低下に対した機能回復を目指す訓練などを担うことが多いです。ただ、病院においては、職種横断的に関わることがあるため、OTも作業に必要な機能回復は目指しますし、PTも作業に繋がる動作練習を行います。また作業活動を行うためには認知機能も大事な要素でもあるため、STも認知機能訓練という介入で作業遂行に必要な介入を行っています。

作業療法士(OT)は、人々の心身機能を脳神経生理や運動学的側面から理解し、人々が行う「作業」に関わるいくつもの要素(運動面、感覚面、認知面、高次脳機能面、精神的側面、物的・人的環境面など)から科学的に分析します。これを「作業分析」と呼んでおり、作業分析の視点から困難さの要因を突き止め、「作業」が安全かつ合理的に行えるようになるための心身機能面、環境面への介入を行います。


では、ここからは子どもたちへの支援に焦点を当てて、述べていきましょう。

発達に遅れがある子どもたちは、身体機能、社会性、コミュニケーション、日常生活動作(食事、排泄、着替え、入浴、歯磨きなど身の回りの動作)において困難さを抱えていることがあります。それにより、日々の生活で自己肯定感の低下を引き起こしたり、保育園や学校などの集団生活の場において環境への適応が困難となるケースがあります。手先が不器用、座っている姿勢が悪い、じっとしていられない、ルールが守れない、不注意が多い、口より先に手が出てしまう、人の話を聞けないなどはよくある事例です。

子どもに関わる(発達領域の)作業療法では、時に「問題」と言われてしまう、「気になる行動」のなかにも懸命に生きようとする姿に着目します。我々はお子さんの気になる行動の軽減や解消だけでなく、その行動が社会の中で容認できるかたちに置き換えられるようになることが真に重要だと考えています。「問題」を矯正することより、「個性」を大切にし、その個性が社会適応の妨げとならないような生き方を身につけることこそ、その子にとって真に必要なことだと考えるからです。

発達領域の作業療法現場では、「作業分析」によって得られた子どもの課題と強みの両面に着目し、その子が自ら楽しく遊びながら運動面・社会性の発達につながるような活動を提供します。作業療法士は、子供たちが日々行うあらゆる「作業」を行う上で求められる身体機能面、高次脳機能面、精神的側面などだけでなく、その子が利用できる環境などを総合的に分析していきます。このように「作業」を科学的に分析する「作業分析」という視点を基に支援を展開していくのは作業療法士の最も大きな特徴です。

その一環で、発達支援につながる活動や遊具を提案したり、環境を適切なものになるよう整えたりもします。環境を整えるという点ではリスクを適切に取り除く必要性はありますが、段差を越えたり背伸びをしたり、日々の暮らしの中にあえてチャレンジングな要素を残しておくことも子どもの生得的な心身機能を引き出す意味で有効だと考えています。

発達を促す上で必要な「チャレンジ」は残し、活動を著しく阻害する「バリア」は取り除くという難しい判断を「作業分析」の手法を用いて、科学的根拠に基づき展開していきます。また、日常生活において子どもが自分で行えることが増えていくよう、その子の発達段階を見極めた練習も行います。生活環境の中でバリアを強く感じる場合によっては、物的・人的環境を整える意味で、自助具の利用を提案したり、環境を整えたり、保育・教育現場の多職種と協議しながら適切な関わり方も検討していきます。このように、作業療法士は科学的視点にたち、その子が生活を営みやすいものになるよう総合的に関与していきます。

このような専門性をもつ作業療法士ですが、主な活躍の現場は、病院など医療・介護施設がほとんどです。医療施設のなかでも子どもの発達領域に関わる仕事は5%程度に留まり、特別支援学校など教育関連施設に勤務する1%を足しても、子どもに関わる作業療法士は、全体のたったの6%程度だった という調査結果もあります。一方で、保育園や小学校、学童保育所など子育て支援の最前線では、日常生活場面で困難さを抱えている子どもは少なくありません。むしろ現場で大いにニーズがあっても、作業療法士の支援に繋がっていないのが多いというのが印象です。

そのようななか私は、保育園や児童館、学童保育所を運営する法人で、乳幼児や小学生を対象として自らの専門性を活かすことのできる仕事を見つけました。次のコラムでは、作業療法士が保育現場において、保育士といかに連携・協働し、子どもたちへの支援を行っているかをお伝えします。

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