発達支援専門コラム
保育現場での言語聴覚士の役割 ①言語発達
子育てをしていると、子どもの成長を実感し喜ぶこともあれば、順調に成長しているのか不安になることもあると思います。そんなとき、保護者や子どもの支えとなるのは、子育ての喜びや不安を共有しながら、子どもの健やかな発達を促していく人の存在ではないでしょうか。それが、美樹和会においては保育士、放課後児童支援員、栄養士、看護師、心理士、作業療法士、言語聴覚士にあたります。近年、発達支援が注目されるようになり、関係施設間での連携が少しずつ取れるようになってきてはいますが、これらの関連職種が保育園や学童でともに活動している例は多くありません。同一法人に多職種が在籍して協働する強みとしては、多角的に子どもの発達を捉えることができること、そして子どもに関わる職員全員が必要な情報を把握し、求められる支援をつくりあげていけることだと思います。そのような支援を実践していくことで、子どもたちの健やかな成長を支えることができればと願っています。
言語聴覚士としては、①言語発達、②構音発達、③吃音、④難聴が専門分野になります。子どもの状態を評価し、支援のポイントを保護者の方や職員と共有し、実践していく手助けをしていきます。今回は①言語発達について述べたいと思います。
ことばの発達には、認知発達、象徴機能の発達、対人関係の発達が大きく関与していると言われています。認知発達では、スイスの心理学者ピアジェが唱えた発達段階説が一般的に取りあげられることが多く、ことばの獲得には感覚運動期第6段階までの発達が必要だと言われています。具体的には、手段-目的関係(紐を引いておもちゃを取る、など)、物の永続性(目の前から見えなくなったものがどこにあるのかイメージする)、物を見立てて遊ぶ象徴遊び、前に経験したことをしばらくしてから真似る延滞模倣などです。
対人関係の発達では、共同注意や三項関係の成立が重要な役割を果たします。これを基盤として、他者と物を介したやり取りが少しずつできるようになります。これがコミュニケーションの土台となります。つまり、他者認知がこの過程で進んでいくことが重要なのだと思います。他者を観察し、他者の行動を自分の身に置き換えて再現する動作模倣もことばの発達において重要ですが、これも他者認知なくしてはありえません。注意を向ける、記憶しておく、といった力も必要です。三項関係が成立すると、おもちゃを他者に見せたり、渡したりする行動に加えて、指差しも見られるようになります。指差しは言語発達において重要なポイントです。指さしが出ることの背景には、他者に伝えたいという意図に加えて、指すものと指されるものとの関係の理解があるということです。これが、ことば(音のつながり)と対象(意味)を結び付けていく力に繋がります。
初語が出て、ことばが増えていく過程においては、特に象徴機能の発達が重要です。おままごとやごっこ遊びをする中で、子どもたちの遊び方は変化していきます。ふり遊びから見立て遊び、操作の対象が自分から他人や人形に移行したり、系列をなした遊びができたりするようになっていきます。これらが、1歳半以降での語彙の爆発的増加や文法発達の支えになっていると言われています。
このように、ことばの発達を支える基盤が現状どのように育っているか、普段の遊びの様子や他者との関わりから把握することが、支援を考える上では重要です。その中で見えてきた「これから伸ばしていきたいところ」に対して、子どもが楽しいと思えることや好きなことに寄り添いながら働きかけていくことが大事です。二項関係が強く、対人関係の弱い子であれば、その子の好きな遊びを一緒にしながら、その子の気持ちを共有していく(他者と気持ちを共有する体験を重ねていく)。そこから、他者認知を広げ、ことば掛けを通して、ことばを使ったコミュニケーションを促していく、といった具合に支援していきます。認知の発達に弱さがある子であれば、その子の好きな物や事柄を遊びに取り入れながら認知発達を促していきます。聞く力が弱い子では、発することばが分かりづらいこともあります。音を意識する遊びを取り入れることで、音韻理解を促し、ことばが明瞭になっていくこともあります。理解語彙は多くても表出語彙が少ない子であれば、ことばを表出することで楽しい経験ができるという場を作り、表出を促していくこともあります。
子どもによって課題は様々です。一人ひとりに対してどのような支援が必要なのかを考える上では、やはりその状態をしっかり評価し、理解することが何よりも大切です。「ことばがゆっくり」だから「何をすればいいのか」ではなく、「どの程度ゆっくりなのか、なぜなのか」を考えたうえで、子ども目線に立って発達を支えていく、促していく支援を行っていくことが健やかな成長には欠かせません。子どもが楽しい、自発的にやりたいと思えるものが何かを考えながら支援のお役に立てればと思います。