発達支援専門コラム
作業療法士は保育園でどう役立てるか
保育現場において、作業療法介入ニーズがある事例は大きく分けて、
(1)運動発達の遅れなど身体機能の問題
(2)社会性の発達など主に心の問題
の2つに大別できます。どちらの事例においても発達における個人差と捉えることができる場合のほか、医学的背景から脳性麻痺や自閉スペクトラム症など広義の「発達障害」を抱える場合があります。このような場合、生まれつき定型発達の子どもとは発達過程が異なる場合があり、さまざまなつまずきを経験することがあります。
つまずきの代表的なものは次に書くとおりです。
① 感覚の受けとめ方の偏り
② 身体を思うように操れない
③ 目に見えないものや曖昧な言葉の理解が苦手
④ 他者に言葉で思いを伝えることが苦手
⑤ 見通しを立てることや想像することが苦手
こうした困難を抱える子どもが、生活場面で何かの活動に取り組もうとするとき、たとえば、感覚情報の取捨選択ができず活動に取り組めない、身体を思うように操れないことにより、失敗体験が重なり、やがて自己効力感(自分はやればできるという有能感)の低下を引き起こしてしまうといったことがあります。何の支援もなくそのまま時間が過ぎれば、
やってもどうせできない
→ もうやらない
→ 経験が積めないまま発達の課題を積み残して年齢を重ねる
→ (他児との差が開き)同じ社会生活場面ではますます心身の苦労が増加する
という悪循環が生じるケースも珍しくありません。
作業療法士は、子どもの発達過程におけるつまずきを、運動機能面、感覚機能面、認知面、高次脳機能面、精神的側面、環境面などいくつもの要素に分けて「作業分析」を行い、科学的根拠に則って適切な介入を検討していきます。
例えば、ある子どもの感覚の受け止め方に特徴があり、日々の活動が妨げられていた場合、まずはその子にとって過ごしやすい環境を設定し、現状の運動発達から次のステップに移行できるようにするための活動を遊びの要素の中に組み込んでいきます。できることが増えた段階で、細やかな段階付けを行いながら、少しずつ環境への適応が図れるよう後押しします。
また、想像をすることが苦手であったり、行動の見通しが立てられない、言葉で要求を伝えられないなど認知面、高次脳機能面、言語発達の面で、集団生活適応に支障がある子どもの場合でも、「視覚支援」など外的な補助手段を導入したり、その子が活動に集中しやすい環境を整えたうえで、有効な手立てをスモールステップにて身につけたり、言葉で要求を伝えられるようになるためのやりとりを通じて交渉の仕方などお友達との関係を適切なものにできるための社会的スキルを育む練習を行っていきます。
作業療法士には、子どもが集団生活の中での支障が少なくなるための介入を行なっていくほか、保育環境を無理のない範囲で調整したり、つまずきのある子どもに適した言葉かけの仕方などを、クラスで毎日子どもの姿を見て成長を支えている保育士とともに検討していくことができます。そして、このことこそが保育園や児童館で働く作業療法士にまず求められることだと思っています。
現在、子どもの集団生活の場で働くなかで、病院の訓練室で行えるセラピーとはいくつも差があることを体感しているところであります。また、作業療法士の私一人の関わりだけで子どもへの介入は完結するものではなく、日々の保育園での関わり、ご家庭におけるご家族の関わりなど日常生活の連続性の中で成立するものだと考えています。保育現場に常勤の作業療法士が勤務するのは、現状ではとても珍しいケースですが、まずは保育士の同僚に作業療法士が保育現場で「何をすることができるのか」を示し、子どもの健やかな成長を支えるという共通目標に向けて、保育士、心理士、看護師、リハビリ職含めたみぎわの全職種で協業できるように努力していきます。